機械「オマチください」
男性「なによ」
機械「アナタはマダ、認証がすんでいないので、ここのゲートを通過できません」
男性「どういう事?私はこの会社の社員だし、もちろんIDカードは通したわよ」
機械「本日から、IDカードは廃止になったのデス」
男性「じゃあ、どうやって入るのよ」
機械「本日から、社内への入場が『バイオメトリクス認証』になったのデス」
男性「『ばいおめとりくすにんしょう』?なによソレ?」
機械「はい、バイオメトリクス認証とは、身体的な特徴や、身体的な特性など、
個人に固有の情報を利用して、本人の確認を行う認証方式デス。
バイオメトリクス認証は、現在、広く使われている暗証番号やパスワード
IDカードなどに比べ、原理的に『なりすまし』しにくい優れた方法
なのデス。」
男性「ああ、あの指紋をつかって、ピピッっとかやるやつね」
機械「ソウデス、しかし、バイオメトリクス認証で使われるのは、指紋だけでは
ありません。身体的な特徴として使われるものには、指紋、掌紋、手形、
手の甲の静脈、虹彩、顔、音声などが代表的なものとしてあげられます。
また身体的な特性としては、筆跡や打鍵などがあります。これらの特徴
や特性は、いずれも長期間にわたって変化しにくく、類似する特徴・特性を
持つ第三者が皆無か、きわめて少ないという大きな利点があるため。
個人の特定(認証)に非常に有効なのです。」
男性「ああ、そうなの…それにしても、良く喋る機械よね~
中に人がいるのかしら?」
機械「ナカの人などいないのデス!!!」
男性「ああ、びっくりした何も突然キレなくてもいいじゃない」
機械「シツレイしました、シカシ、私は会社が社運をかけて導入した
スーパーハイテクコンピュータなのです。
中の人も、後ろの人もいません。」
男性「なんで、社員のチェックに社運をかける必要があるのよ…
でも、へえ、そうなんだ、でも指紋認証って事前に登録しておかないと
いけないんでしょ、私、事前になにも登録作業なんて行わなかったわよ」
機械「そうですね、通常のバイオメトリクス認証では、どの特徴や特性を使う
ケースでも、まず事前に対象者個人に固有の情報を計測し、システムに
登録しておく必要があります。そして、チェックを受けるたびごとに、
本人の特徴・特性が登録してあるデータと一致するかを確認し、
本人の真正性を認証する事になるわけです。
しか~し、このスーパーハイテクコンピュータは、事前の登録など必要
アリマセン」
男性「スゴいわね」
機械「では、アナタにも認証確認をさせて頂きます」
男性「あ、ハイハイ、人差し指をだせばいいのかしら?」
機械「チッチッチ!甘い甘い、このスーパーハイテクコンピュータは、
どこにでもありがちな指紋なんて使いマセン」
男性「じゃあ、どうすればいいのよ!」
機械「イロイロな認証方法から選べるのです、まずは、『ヘソのゴマ認証』」
男性「はあ?」
機械「ヘソのゴマの汚なさと、その人を性格とを付き合わせて、照合する方式です。」
男性「イヤよ、そんなの」
機械「では、『飛び出せ!青春認証』はどうでしょう?」
男性「なによソレ?」
機械「ハイ、『飛び出せ!青春認証』は、中村雅俊や森田健作の
汗と涙がしぶきとなって飛び散るような
70年代熱血こてこて青春ドラマを全シリーズ見せて、どれだけ興奮し、
熱い涙を流せるかで個人を認証する方式です」
男性「全シリーズ見てたら、時間がかかってしょうがないでしょ!」
機械「なんなら、伊藤かずえや松村雄基たちが、恋にケンカにスポーツにと
大活躍の、80年代青春ドラマモノを使用してもいいですよ!
特にイソップの死にどれだけ泣けるかが、個人認証のカギになります。」
男性「うるさい!若い世代にはサッパリわからないじゃないのよ!
両方とも却下よ!もういいから、私を通して頂戴!
大体、バイオメトリクス認証なんてプライバシーの侵害よ、馬鹿げてるわ!」
機械「ダメですよ!バイオメトリクス認証にはちゃんとしたメリットがあるんデス
バイオメトリクス認証を使うと、本人であることを証明するための何かを
携帯する必要がなくなったり、暗証番号やパスワードなどを記憶する必要が
なくなるといった、便利な面もあるのデスよ。
そのため、アナタにとっても慣れれば便利になるんです!」
男性「でも、人によっては、指紋を認識するための装置に指を差し込んだり、
顔を装置に向けて近づける場合なんかに、心理的な抵抗を感じる人だって
いるでしょ!アタシも前の人の手汗なんかが付いた認証機を使うなんて
なんだかイヤだわ」
機械「それは、あなたがオカマだからですか?」
男性「誰がオカマじゃい!ゴルァ!せめて女の子風とかKABAちゃんチックとか、
言わんかい!大阪湾に沈めてしまうどコラァ!」
機械「ピピッピピッ!」
男性「…ナニ?」
機械「先程のアナタの言動を、極めて有効な個人的特長として登録しておきました
今後、入館される際は、毎回、先程の様な迫力のある啖呵を切って下さい
そうすれば、自動的にゲートが開きます。」
男性「ちょっと!なんて事すんのよ!」
機械「私の認証機能の一つ、名付けて『脅せ!紋切り認証』です」
男性「そんな認証方式にされちゃったら、アタシのイメージががた落ちに
なっちゃうじゃ無いのよ!他の認証方式に変えて頂戴」
機械「ヤレヤレ、アナタは、わがままな女だ…いや男か?…いや女だ…
いや男か?…いや女か?…いや男だ…いや女か?…ガガガ…」
男性「アタシを原因としてバグってんじゃないわよ!!
まるでアタシが解析不能みたいじゃないのよ!」
機械「失礼しました、ミスミスター」
男性「変な呼び方するんじゃない!」
機械「スミマセン、別の認証方をご希望でしたね、
では、『ブナピー認証』は如何でしょうか」
男性「なによソレ?」
機械「食用しめじ『ブナピー』の『ピー』が何を意味しているのかを考察し、
出した結論によって個人を特定する認証方式です」
男性「変な答えを出しちゃいそうだから却下よ、別の認証方式はないの?」
機械「では、『バファリン認証』は如何でしょうか
バファリンの優しさ以外の、残りの半分の成分がなんなのか
について考察し、出した結論によって個人を特定する認証方式です」
男性「それも却下よ!考察系の認証方式から離れて頂戴!
本来、バイオメトリクス認証って、もっと短時間で行わないといけない
ハズでしょ!」
機械「おお、そうでした、では『リアクション認証』はいかがでしょうか
ブーブークッションに乗って、放屁音が炸裂した瞬間の慌てふためいた
リアクションによって、個人を認証する方式です」
男性「そんな毎回驚愕のリアクションなんて出せるわけないでしょうが!」
機械「う~ん、じゃあ『ツッコミ認証』にしましょうか」
男性「嫌な予感はするけど、なによソレ?」
機械「例えば、『え~?オンブズマンって、お年寄りや体の不自由なひとを
オンブする人の事でしょ?』とか言うボケかましに対し、
どのようなツッコミを入れるかで、個人を認証する方式です」
男性「オンブの意味が違うじゃないのよ!」
機械「そうそう、そんな感じで、なかなかスジがいいじゃないですか
オカマの割には」
機械「誰がオガマじゃいゴラ゙ア゙ー!ナメてっと痛い目に逢うぞオラア!
分解して相模湾に沈めたろうか!」
機械「ピピッピピッ!」
男性「…なんじゃい、ビビったんかい!」
機械「ピピッ…ピンポーン!」
男性「…??」
機械「カチャッ、『脅せ!紋切り認証』機能により、アナタの個人的特長を
認識しました、ゲートを開きましたので、どうぞお通り下さい。」