CRT「なあ、俺たち、バンド解散しないか?」
TFT「えっ!何言ってるんだよ!」
STN「おい、なんでそんなこと言い出すんだよ!」
DSTN「そうだ、そうだ」
TFT「俺たち『ディスプレーズ』は、やっとメジャーデビューにこぎ着けて
今からってときじゃないかよ!」
CRT「いいや、俺たち、音楽の方向性が違うんだよ
っていうか、それ以前に、ディスプレイとしての根本的な構造が
違うんだよ」
TFT「どういう事だ!俺たち、同じディスプレイ同士じゃないかよ!
俺たちは、文字や図形を表示する装置で、モニタとも呼ばれる、
表示装置じゃないか!」
DSTN「そうだ、そうだ」
CRT「お前は、わかっちゃいないな…
俺(CRT)は、陰極線管を利用したテレビと同じ原理のディスプレイなんだよ
液晶ディスプレイに比べて重量も重いし、設置面積も大きいのさ…」
STN「それが、どうしたんだよでも、お前(CRT)は、低価格化が最も進んで
いるからリーズナブルじゃないか。」
CRT「まだ、わかんねえのか!俺はもう時代遅れなんだよ!
もう、時代の流れから取り残された、哀れな羊羹なんだよ…」
TFT「ヨウカンってなんだよ、そんなこと、気にすんなよ!」
CRT「うるせえ!今をときめく時代の寵児のお前(TFT)に取っちゃ、理解できない
苦しみなんだよ!」
DSTN「そうだ、そうだ」
TFT「お前はどっちの味方なんだよ…」
STN「でもさ、チームでやってる以上、誰かに人気偏って、別の誰かの
人気が翳る事も時にはあるさ、それを乗り越えてこそ、見える明日も
あるはずさ!」
CRT「うるせえ!カッコいい事言ったつもりかもしれないけどな!
お前(STN)は、俺と同じ、時代遅れのディスプレイなんだよ!」
STN「ガーン」
CRT「お前(STN)は、液晶ディスプレイの一種だから、大丈夫とか
考えていたのかも知れないけどな、それは甘いのさ」
STN「そ、そんな、オレが時代遅れ…ウソだろ…液晶なのに」
CRT「ああ、確かにお前は液晶ディスプレイさ、液晶ディスプレイってやつは
液晶を利用した表示装置で、2枚のガラス板の間に特殊な液体を封入し、
電圧をかけることによって液晶分子の向きを変え、光の透過率を増減
させることで像を表示する構造になっている。液晶自体は発光せず、
明るいところでは反射光を、暗いところでは背後に仕込んだ
蛍光燈(バックライト)の光を使って表示を行なう。
そして、液晶ディスプレイってやつは設置面積が小さく
消費電力も少ないっていうメリットがあるから、人気は上昇しているさ」
STN「だったらなぜ…」
CRT「それは、お前がSTNだからさ…
STNってやつは、単純マトリクス方式を用いるから製造コストは安いが、
画面の表示が遅く、斜めから見ると画面が見えない。
つまり、表示品質が悪いのさ、最近の液晶ディスプレイはTFTとDSTN
が主流でSTNは殆ど使われる事がなくなって来ているんだ…」
STN「なんてこったい、オレも、もう使い古しのボロぞうきんだってことか…」
DSTN「そうだ、そうだ」
STN「ゴルァ!お前は思いやりのカケラもないのか!」
DSTN「そうだ、そうだ」
STN「ああ、無いんだ…」
DSTN「そうだ、そうだ」
STN「というか、お前は『そうだ、そうだ』以外喋れないのか!」
DSTN「そうだ、そうだ」
STN「駄目だこりゃ…、なんでオレはこんなやつに劣ってるんだよ…」
CRT「仕方ないさ、DSTNは表示部を2分割して同時にスキャンし、
応答速度を高めた改良型STN方式だからな…
STNに比較して電圧を加える時間が2倍になったため、
コントラストなどが改善されている。TFT方式より性能は劣るが、
コストが低いため、低価格のノートパソコンや、携帯電話の
表示部分などで利用されているってワケさ。」
TFT「み、みんな、お互い性能の話は終わりにしてさ、飲みにでも行こうよ
オレがおごるからさ…」
CRT「うるせえ!今をときめく、お前に言われたかないんだよ」
DSTN「そうだ、そうだ」
CRT「お前も黙ってろ!いいか、TFTっていうのは、
薄膜状のトランジスタを利用した液晶ディスプレイで、
ガラス基盤上にアモルファスシリコンなどで構築された
トランジスタを利用する技術で構成されたディスプレイなんだ、
TFT は高価なんだが、コンストラクトは良いし、画面表示も速いし、
消費電力も小さいし、画面のちらつきも少ないし、
電磁波もほとんど発生しないし、良いことずくめなんだよ。
だから、パソコンのディスプレイとして主流になっているのは勿論
それ以外にも、カーナビ、ディジタルカメラ、液晶テレビにも使用
されていて、今や時代のエースなのさ。
だから、バンドは俺たちがいなくても、お前(TFT)のソロで
十分なんだよ」
TFT「俺たちのバンドは、もう終わりなのか…」
STN「終わりだな…仕方ない」
CRT「いつかは、こうなる運命だったのさ…」
DSTN「そうだ、そうだ」
STN「残念だ、今まで楽しかったよ…」
CRT「解散コンサートを開かないとな…」
DSTN「そうだ、そうだ」
TFT「ところでさ…」
CRT「なんだ?」
TFT「こういう話って、コタツに入って、ナベを突つき合いながら
話すような事じゃないよな」
CRT「確かにな」
TFT「闇ナベとは言ったけど、冬瓜を丸ごと投入は反則だよな」
STN「ジガジガするしな」
TFT「しかも、あんこモチの焼いたのが入ってるな」
STN「せっかちだな、せめて正月まで待てなかったのかな」
TFT「さらに、誰かフォアグラ放り込んだヤツがいるぞ」
CRT「太ったガチョウの脂肪肝になにを期待したんだろうな?」
TFT「ちくわぶにピーナツバター塗ったヤツまで入ってるな」
CRT「どうやって、ちくわぶにピーナツバターという発想に至ったんだろうな?」
STN「しかも、全体の味付けは牛すね肉を煮込んだ、
本格ドミグラスソースなんだろ?」
CRT「組み合わせ的には、一種のジャイアンシチューだよな」
DSTN「そうだ、そうだ」
TFT「もう、マズイのか、ウマイのかすら、わからなくなってるな」
CRT「なんか、ぬるぬるするしな」
STN「ワカメの根っこ的な物体が混入されているからだな」
CRT「普通にメカブって言えよ」
DSTN「そうだ、そうだ」
TFT「そういえば、日曜日のゲートボール、どうする?」
CRT「みんな行くみたいだよ」
STN「いつもジイサン達にコテンパンに負けてばかりもいられないだろ、
我が、ディスプレイヤングマンズもたまには勝たないとな」
CRT「たまには、YMCAって踊りたいよな」
TFT「バントはケンカ別れするのに、ゲートボールは続けるんだ…」
CRT「ゲートボールに、音楽の方向性の違いもクソも無いしな」
STN「それとこれとは別問題だよ」
DSTN「そうだ、そうだ」
TFT「それにしても、この闇ナベ、なんかシュワシュワした甘ったるい味
がするんだけど」
CRT「本当だ、シュワシュワする、いったいなにが入っているんだ?」
DSTN「ソーダ、ソーダ」
STN「ソーダかよ!」