ここは、とある大学病院、緑色の服を纏った人間達が
張りつめる緊張感の中、一人の人物の登場を待っていた。
と、その時、自動ドアが左右にひらき、手袋をつけた手を
垂直に持ち上げながら、男は登場した。
教授
「待たせたな、只今からオペを行う」
助手
「宜しくお願いします」
教授
「メス!」
看護婦エリ
「はいっ!」
エリは、紫色の光沢を持つ物体を、素早く教授へと手渡した。
教授
「ん、丸みを帯びすぎてイマイチ患部が切りにくいな…
おいっ!これはメスじゃなくて『ナス』じゃないか!」
看護婦エリ
「え?ゴメンなさい、秋茄子の方が良かったですか」
教授
「違うだろ!流石の私もナスでオペはできん。早くメスを渡したまえ」
エリに代わって、助手が素早くメスを手渡す。
助手
「先生!コレを使って下さい。」
教授
「ウム、助かる…」
教授は慣れたメスさばきでオペを進め、患部まで到達した。
教授
「なるほど…原因がわかったぞ、これは『クロックアップ』の影響だな」
助手
「クロックアップ…ですか?」
教授
「ああ、クロックというのはCPUの動作周波数の事で、
人間でいうと心臓の鼓動に、
音楽でいうとテンポに、
音楽室でいうとメトロノームに該当する。」
助手
「パソコンのCPUスペック表記でPentium4 2GHzとか
Celeron 1.06GHzとか記載されている『Hz』の数値の事ですね」
教授
「ああ、その通りだ、クロックが早ければ、CPUの速度は早くなるが、
その分、発熱量も増大するなどCPUへの負担も大きくなる、よって、
それぞれのCPUには、標準の動作周波数が出荷時から決められている。この
動作周波数を強引に操作して早くする事を『クロックアップ』というのさ
このCPUは標準よりも遥かに周期の速いクロックで動作する様に、
ユーザに強要されていたんだな。」
助手
「なぜ、患者はそんな目にあったのでしょうか?」
教授
「それはだな、クロックが早ければ、CPUの速度は早くなる、
つまり、ユーザがタダでCPUの性能を向上させようとしたのさ。
CPUは標準の動作周波数での動作を保証する為に、実際は
もう少し上の動作周波数まで耐えられる様に設計してある。
耐クロック性に、余裕が無ければトラブルも起こりやすいしな
だが、実際はどこまでのクロックアップに耐えられるのかは
個々のCPUごとに違うため、設定して試すしかないんだ」
助手
「そして患者は無理なクロックアップを強要された…と」
教授
「ああ、その代償がコレさ。見ろ、患部の凄まじい発熱を」
助手
「なんて、ムゴい、ここまで熱気が立ち込めてくる」
ピロロロン!ピロロロン!
その時、観測機器から甲高いアラーム音が発せられ、
室内全体に鳴り響いた。
助手
「先生、容体、急変です」
教授
「くそっ、マズい!熱暴走が始まったか、内部の電子機器が
ショートしたら、もう助からん!
おい、今すぐ『クロックダウン』を行うぞ!
『BIOS』の画面を開け!患部に風を当てろ!
ちくしょう、なんて暑さだ、おい『アセ』だ!」
看護婦エリ
「はい、どうぞ!闘う国会議員です」
教授
「バカ野郎、これは『ハセ』だ!」
看護婦エリ
「はい、東スポの一面です。」
教授
「タコ野郎、それは『ガセ』だ!
いいからタオルを持ってこい」
看護婦エリ
「そんな、試合を中止するんですか」
教授
「だれがリングに投入するといった、汗を拭くんだよ!」
看護婦エリ
「ハイ、タオルです」
教授
「これは、バスタオルじゃないか!」
看護婦エリ
「違いますよ、バスローブで~す♪」
教授
「ウキー!バスローブを何に使えと言うんだ~」
助手
「エリくん、ちょっと交代しよう。先生、早く熱暴走を止めないと」
教授
「あ、ああ、そうだったな『BIOS』の設定をすぐに書き換えよう」
助手
「先生、そもそも『BIOS』とはなんなのですか?」
教授
「『BIOS』はベーシック・インプット・アウトプット・システムの頭文字を
あわせたもので、コンピュータに接続された機器に対する基本的な
入出力を制御するプログラム群を格納した装置の事だ、通常パソコンの中の
フラッシュメモリに格納されていて、『クロック』の設定もココで制御
するんだ。」
助手
「では、速やかにクロックの設定を工場出荷時に戻しましょう」
教授
「気をつけろ『BIOS』の書き換えは極めて危険な行為だ、書き換えに失敗したら
そのパソコンはおしまいだ。細心の注意を払うんだ!」
助手
「ゴクリ…はい」
ピロロロン!ピロロロン!
教授
「しまった、Windowsで保護エラーが発生した!OSの動作が不安定になっている
各アプリ緊急終了、OS再起動、F2キーを押してセットアップ画面を開く
んだ!」
助手
「ダメです!OS応答しません!」
教授
「ctrl+alt+delを同時に押して強制的に再起動せよ!」
助手
「ダメです!なにも反応がありません」
看護婦エリ
「センセ、電気ショックの準備ができました!」
教授
「おお気が利くな!機械を貸せ!
カウンターショックだ!さがれ!」
ボムッ!!
助手
「先生ちょっと、パソコンにカウンターショックはマズいでしょ!
ボムッ!って言ってましたよ。煙ででるし…」
看護婦エリ
「センセ、ご愁傷様です」
教授
「ぐはあ、お前がやらせたんだろ!」
看護婦エリ
「これがホントの電気ショ~ック。」
教授
「お前が言うな~」